2020.04.30

なり方、やりがい…レアなおシゴト図鑑 | Vol.13 通訳ガイド

世の中にはさまざまなシゴトがあるけど、なかには就職情報サイトではなかなか見つけられないものも…。そんなちょっと意外なシゴトについている社会人を紹介します。

 

外国人観光客に日本の魅力を紹介する
通訳ガイド

永田浩子さん

プロフィール●全国通訳案内士。情報サービス会社に8年間勤務した後、フリーランスの編集・ライターとして出産・育児のブランクをはさみ6年間活動。2016年2月通訳案内士試験に合格後、フリーランスの通訳案内士として活躍中。現在までに30カ国、約250組以上のゲストを案内。

 

 

観光スポットだけでなく「普段着の日本」を外国の人たちに知ってもらう

 

――「通訳ガイド」というのはどんなお仕事なんですか?

外国から日本を訪れたゲストに対して、外国語で観光地の案内をしたり、日本の文化や歴史などを紹介したりする仕事です。

 

――そういえば、浅草やスカイツリーなどの観光地で小さな旗を持ち、外国人観光客に対して外国語で案内をしている人を見かけたことがあります。

団体ツアーの通訳ガイドの場合は、旗を持つことが多いですね。ゲストの種類は大まかにFIT(Foreign Independent Tourの略。個人や少人数のグループで航空券や宿泊施設などを自由に手配して行う海外旅行)と団体ツアーに分かれます。

団体ツアーは多人数のゲストを同時にガイドするのでみんなに楽しんでもらえるトークや多人数をまとめる力が求められます。ツアーの企画は旅行会社が決め、緊急時の対応力は必要ですが、基本的にはガイドの判断で行き先を変えることはありません。一方、FITの場合は「行程はガイドにお任せ」ということも多く、旅行会社から旅程表を渡されている場合も、ゲストの要望や好みに合わせて臨機応変に変えていきます。

通訳ガイドによって団体とFITのどちらかが中心だったり、両方やっていたりしますが、これまでのところ私はFITの方がメインです。団体の場合もできるだけきめ細やかなサービスをしたいなと思っていますが、FITはゲストとより密接に接することができるので、一人ひとりに合わせて対応する面白さがあります。「今日はエレガントで知的なガイド」「今日はノリの良い、一緒に楽しもうイェーイ!!なガイド」「日本に住んでる姪っ子バージョン」などゲストの個性や関心に合わせてモードを切り替えて、楽しみながらやっています。経済や株について聞かれることも多く、苦手な分野も克服しなきゃ、と日々勉強中です。

 

――FITのゲストの特徴は?

個人や少人数のグループで通訳ガイドを雇う層ですから、ズバリ、富裕層が中心です。旅慣れていて、東京や大阪、京都といった都市部以外に足を延ばす人も多いですね。皆さんよく日本のことを知っていて、日本の面白い場所を私の方が教えられることも少なくありません。

 

――例えば、どんな場所ですか? 築地の場外でお寿司を食べるとか?

もはやそれは定番です。ここ数年人気なのは、ロボットショーが見られる「ロボットレストラン」、「猫カフェ」はもちろん、動物系カフェとか。新宿の「思い出横丁」や「ゴールデン街」も、「おすすめのお店ある?」などと聞かれることが多いです。地方に足を延ばすゲストなら、冬の人気は何と言っても「スノーモンキー」です!

 

――ス…スノーモンキー!?

長野県の池獄谷野猿公苑などで見られる温泉につかる日本猿のことです。先進国で野生の猿が生息しているのは日本だけだって知ってました? あと、猿は暖かい地域にすむので、雪景色と猿のコンビネーションというのは世界でも例を見ないんです。スノーモンキーを見たゲストは間違いなく興奮しますよ。スキーのついでに見に行くゲストが多いのですが、東京から日帰りの弾丸バスツアーでスノーモンキーだけを見に行く人もいるんですよ。

 

――確かに温泉のおサルは可愛らしいですけど、それほどまでに人気とは…。

意外ですよね。この仕事をしていて実感するのは、「日本人の見せたい日本と外国人が見たい日本は違う」ということです。外国人を案内する場所というと、私たちは観光スポットを思い浮かべがちなんですけど、ゲストからは「いわゆる観光地とは違うところに連れて行って」というリクエストがよくあります。外国の人たちはもっと「普段着の日本」だったり、「興味をそそられるもの」が見たいんですよね。

 

――定番の観光地だけでは満足してもらえないとなると、情報収集が大変そうですね。

うーん。私、おいしいお店や面白い場所の情報を集めたり、友だちと教えあったりするのが大好きなんです。この間は東京都内のツアーにファッション好きなゲストが申し込みをしてくれたので、さっそく情報収集して、原宿の『シュプリーム』や銀座の『ドーバー ストリート マーケット』に行ってきました。とっても喜んでいただけましたよ。

 

ゲストと「仲良くなれた」と感じられる瞬間がやりがい。別れ際は悲しくなってしまうことも

 

――案内をしても無反応だったり、つまらなそうにするイヤなゲストもいたりしますか?

「イヤなゲスト」とは思わないですよ。ゲストの個性は本当にさまざまなので、「面白いね」と明るく反応してくれる人もいれば、静かに楽しみたい人もいます。だから、相手の反応によって「こんな話もしてみようかな」「少しトークは控えめにしようかな」と考えたりしますね。お話をしているうちに事前のやりとりではわからなかった相手の好みを知って、「じゃあ、次は予定を変えて、ここに行ってみましょうか」とその場でプランを修正することもあります。

「ポケモンGO」が流行っていた時期は、「あれ? 反応が鈍いな?」と思ってゲストの手元を見たら、ポケモン出現で、捕獲に夢中ということも(笑)。そこで、日本のポケモンスポットをお教えしたらすごく喜んでもらえて、仲良くなれました。

 

――やりがいを感じる瞬間は?

ゲストをお見送りする際に「メルボルンに来たら、私が案内するからね」「友だちが今度日本に来るから、HIROのことを紹介してもいい?」なんて言ってもらえた時は、それはもう、うれしい。ガイド冥利に尽きます。仲良くなったゲストとの別れ際は悲しくなってしまうこともありますね。

あとは、「明日は相撲部屋の見学に行きたい」とか、「ここの観光はやめて、ハリネズミカフェに行きたい」とゲストが「わがまま」を言ってくれるのもうれしい。もちろん、できないことはきちんと説明をしますけど、なんとかできないか工夫するのも通訳ガイドとしての腕の見せどころ。燃えます!

通訳ガイドは短くて数時間、長ければ数日間朝から晩までゲストと行動を共にします。ツアーに参加してくれるゲストは日本を楽しみに来てくれているのだから、その時間を思い切りくつろいで、楽しんでほしいと思っています。

 

流暢な英語よりも大事なのは、ゲストの文化圏に合わせたわかりやすい英語

 

――ところで、「通訳ガイド」になるには、どのくらいの語学力が必要なんですか?

「全国通訳案内士」の国家試験の外国語の種類は英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語。英語の場合、英検1級、TOEIC@Test 900点レベルです。法改正で2018年1月から「全国通訳案内士」の資格がなくても通訳ガイドの仕事ができるようになりましたが(※)、観光庁では旅行業者に対して有資格者を優先して手配するよう指導していますし、ゲストとスムーズにコミュニケーションするためにも、語学力は常に磨いておく必要があると思います。

※2017年12月以前は、有償で通訳ガイドをするには「通訳案内士(現・全国通訳案内士)の国家資格が必要だった。また、無資格者が「全国通訳案内士」の資格名称を使用することは禁止されている。

ただし、必ずしもネイティブスピーカーのように流暢に英語を話す必要はありません。ゲストは英語圏の方たちだけではないので、一番重要なのはそれぞれの国の人たちにわかりやすく話すこと。そして、いろいろな国の英語を耳で理解できることも大事です。アメリカのビジネスマンや教授と話す時と、英語が片言なメキシコの陽気なおじさまたちと話す時の英語は別物だったりするんですよ。

 

――通訳ガイドの就職状況は?

2018年度の通訳案内士試験の合格率は9.8パーセント。国家試験が難しいこともあって、通訳ガイドの数はまだ多いとは言えませんが、2020年の東京オリンピックもあって需要は増えていくと思いますよ。

国家資格を旅行会社や旅行代理店で生かしている人もいますが、現状ではフリーランスとして働く人が多いです。フリーランスの場合は、ガイド団体や通訳ガイドの派遣をしているエージェントに登録して仕事を紹介してもらったり、旅行代理店から直接依頼をもらうこともあります。私の場合、ゲストと通訳ガイドのマッチングをするプラットフォームサービスにも登録していて、ゲストからの直接の申し込みも受けています。

 

――収入についても教えていただけますか?

登録しているエージェントによってガイド料はさまざまです。マージンも幅があります。私の場合、時給に換算すると2000円から、案件によっては5000円くらい。もっと高い額をもらっている人もいれば、ボランティアと変わらない料金で仕事を受けている人もいますよ。あと、必ずいただけるものではありませんが、意外と収入になるのがチップ。「日本にチップの習慣がないのはわかっているけど、あなたには受け取ってほしい」なんて言葉を添えて渡していただいたりすることもあって、そんな時は「ああ、仕事をして本当に良かったな」と思います。

 

――最後に、通訳ガイドになるために学生時代からやっておいた方がいいことってありますか?

語学は磨いておくにこしたことはないかも。「全国通訳案内士」の試験では免除項目もいくつかあって、英語なら「英検1級」か、「TOEIC@Test900点以上」のスコアがあれば、語学の試験が免除されますよ。

それから、通訳ガイドには語学力や知識だけでなく、自分とは異なるバックグラウンドを持つ人たちに初対面で好感を与え、興味を持って話を聞いてもらうコミュニケーション力が求められます。その力を磨くなら、学生時代は絶好の機会。さまざまな文化、習慣、属性を持つ人に会って、いろいろな場所に行き、経験の幅を広げてもらうといいんじゃないかなと思います。

 
※本文は2018年取材時の内容で掲載しております

取材・文/泉 彩子