2020.04.23

なり方、やりがい…レアなおシゴト図鑑 | Vol.12 スクールカウンセラー

世の中にはさまざまなシゴトがあるけど、なかには就職情報サイトではなかなか見つけられないものも…。そんなちょっと意外なシゴトについている社会人を紹介します。

子どもたちの心を支える
スクールカウンセラー

西野薫さんプロフィール●2001年3月、早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻修了。大学院在学中より「西東京市教育相談センター専任教育相談員」として、1999年〜2010年までの11年間勤務。センターでの相談活動に加え、市のスクールカウンセラーとして市内小学校に派遣される。03年、臨床心理士資格を取得した後、「東京都スクールカウンセラー」として勤務。現在は東京都内の小中学校でスクールカウンセラーを務める一方、07年から勤務する「東京カウンセリングセンター」などで臨床心理士として幅広い年代の人たちのメンタルヘルス支援を行っている。

 

子どもが抱える問題の背景には、いろいろな人の〝想い〟がある

 

――スクールカウンセラーを志したきっかけを教えていただけますか?

中学生時代に幼なじみが不登校になり、心の問題に関心を持ったことがきっかけです。いつか彼女のように悩みを抱えた人たちをサポートできるようになれたらと思ったんですね。当時はそのような職業があるかどうかも知らなかったのですが、高校時代にスクールカウンセラーの存在を知り、大学の心理学科に進学しました。

 

――スクールカンセラーになるために必要な資格は?

2018年10月現在は臨床心理士がほとんどです(※)。まれに、精神科医や大学の心理学教授の方もいらっしゃいます。臨床心理士の資格を取るには指定大学院で学んで受験資格を得たのち、資格試験に合格する必要があります。
※以前は心理関係の資格は「臨床心理士」をはじめとする民間資格のみだったが、2017年9月に施行された「公認心理師法」に基づいて国家資格「公認心理師」が新設され、2019年2月に公認心理師第一号が誕生した。
 
私の場合、少しでも早く臨床経験を積みたかったので、大学院在学中から「西東京市教育相談センター専任教育相談員」として幼児から高校生の心理相談業務を担当し、臨床心理士の資格を取得後、東京都のスクールカウンセラーとして都内の小中学校にも派遣されるようになりました。

 

――初めて教育の現場でお仕事をされて、お感じになったことは?

大学や大学院では心の悩みを抱えたその人に対してどんな支援ができるかという、個人に対するアプローチをおもに学びましたが、現場に身を置いて実感したのは、相談者が抱える問題や悩みの背景には、子ども本人やその保護者だけでなく、その子に関係するクラスの子どもたちやその保護者、教員・学校組織などいろいろな人の〝想い〟があるということです。それらの背景をきちんと把握し、こんがらかった糸をほぐしていくことが大事なんだということを知りました。

そのためには教職員の方々との信頼関係も欠かせませんが、私がスクールカウンセラーになった03年当時は学校現場での認知度が高くなく、「教育委員会からスクールカウンセラーが派遣されてきたけれど、何をする人なんだろう?」という戸惑いや拒否感も学校側にありました。そこで、職員室での雑談に加わったり、コピーなどの事務作業をお手伝いするなどコミュニケーションは意識していましたね。「学校の役に立ちたい」という姿勢を見せることで少しずつ受け入れていただき、「クラスでこんなことがあったんだけど、相談に乗ってもらえますか?」などと気軽に声をかけてもらえるようになりました。

 

スクールカウンセラーは「演者」ではなく「黒子」

 

――お仕事で心がけていることは?

自分の価値観をフラットにすることでしょうか。相談者から「この人なら」と安心して話をしてもらうには、相手を批判せず、受け入れることが大事ですが、自分の価値観にとらわれてしまうと、実践が難しくなることがあります。例えば、私は比較的時間に厳しいタイプなのですが、だからと言って、遅刻をしてしまった相談者に対してイライラした気持ちを抱えてしまうと、カウンセリングできちんと話を聞くことはできません。

 

――どうすれば価値観をフラットに保てるのでしょう?

自分のトリセツ(取り扱い説明書)を作っておくと良いかと思います。日常で心が揺れ動いた時に、「こういう時に自分はこう感じるんだな」と感情を客観的に見つめ、嫉妬など自分の醜い面も知っておく。人間なので、完全にフラットな価値観で相手と接することは難しいですが、自分のトリセツがあれば、感情のコントロールがしやすくなります。

 

――いじめや家庭内暴力などつらい話を聞くことも多いと思います。受け止め切れず、悩むことはありませんか?

やり切れない気持ちになることもありますが、その度に大学時代の恩師がおっしゃった「一緒に溺れるのではなく、岸から浮き輪を投げられる人になりなさい」という言葉を思い出します。相談者の心に寄り添うことは大事ですが、感情移入し過ぎてしまうと、一緒に溺れてしまいます。感情を波立たせないよう、一枚の絵を見るようにお話を聞くようにしています。

 

――お仕事で一番難しいと感じるのは?

表層的な問題をただ「解決」しようとしても、本当の支援にはつながりにくいところです。例えば、不登校の要因が学校だけでなく両親の不仲など家庭環境にもある場合に、学校での要因だけ取り除いて一時的に登校できるようになっても、家庭での要因に対するケアがなかったために再び不登校になってしまうこともあります。少しでもそういうケースをなくすためには、相談者や周囲の方たちと何でも話してもらえる関係を築き、問題の背景をきちんと知った上で支援をすることが本当に大切だと感じています。私自身はまだまだ理想の仕事をできているとは言えないので、生涯学び続けなければと思います。

それから、スクールカウンセラーが目指すべきは問題を「解決」することではなく、子どもや保護者、教職員など学校現場の方たちに「自分たちで解決できた」という思いを持ってもらうことだと思っています。もちろん、解決のためにできるだけの支援をしますが、私たちが前面に立ってしまうと、皆さんのせっかくの成長の機会を奪うこともあります。舞台に例えるなら、スクールカウンセラーの役割は「演者」ではなく「黒子」だと考えています。

 

――「この仕事をしていて良かった」と思う瞬間は?

子どもが悩みを乗り越えて成長していく姿を見られるのが一番のやりがいです。守秘義務があるので、具体的なエピソードをお話しすることはできないのですが、学校に来ることもできなかったお子さんが笑顔を取り戻し、元気に過ごしている姿を見るとすごくうれしいですね。

 

学生時代は多くの人に出会い、いろいろな価値観に触れてほしい

 

――現在は東京都内の小中学校でスクールカウンセラーを務める一方、「東京カウンセリングセンター」などで幅広い年代の人たちの心理カウンセリングに携わっていらっしゃいます。勤務形態について教えていただけますか?

スクールカウンセラーとして週2日、8時間半(休憩45分込み)、もうひとつの勤務先では、9:00~17:00(休憩1時間)と10:00~19:00(休憩1時間30分)の勤務をしています。スクールカウンセラーの仕事は非常勤がほとんどで、複数の職場で働く人が多いです。

スクールカウンセラーの仕事の勤務時間帯は派遣される学校によってさまざまですが、私の場合、現在は8時20分始業で、16時50分終業。カウンセリングは1回40分ほどで、1日10名〜15名のお話をうかがいます。なので、終業時間が延びてしまうこともありますね。

 

――スクールカウンセラーの募集要項を見ると、時給は3000円から5000円くらいと高めですが、有期の契約で働くことがほとんどのようですね。

一般の会社員よりは収入が安定しにくいのは事実です。臨床心理士の資格を持っていれば、病院や相談機関、心理学の講師など幅広い職場で需要があるので、仕事を兼務すれば、暮らしてはいけます。ただ、臨床心理士の雇用の枠自体はあまり多くないので、上手に自分を売り込んでいく必要があるかもしれません。現状では、スクールカウンセラーは、ひとつの組織に属するよりも、専門性を生かして広く活動したいという人に向いているかもしれません。

 

――スクールカウンセラーの重要性は高まっており、雇用の安定のために常勤化も検討されていると聞きます。

今後どうなるかはわかりませんが、「第三者性を保つことができて、子どもたちが心を開いて相談しやすい」「スクールカウンセラーが常時いないからこそ、当事者の自律的な解決力が育ちやすい」という非常勤ならではの良さもあることを知っておいていただけたらと思います。

私自身は複数の職場で働くことによって、視野が広がったと感じています。例えば、社会人の方の心理カウンセリングをすることで、保護者の心の傷がお子さんにも大きな影響を与えたケースを知り、スクールカウンセラーとして問題の背景を以前よりも多角的に捉えられるようになったりしました。

また、社会人の相談者のお話をうかがっていて、つくづく思うのが、幼少期の心のケアの大切さです。ですから、スクールカウンセラーとして、将来の土台となる大事な時期に心理支援をさせていただけることに大きな喜びを感じています。

 

――最後に、学生時代の経験で、今のお仕事に生きていることを教えていただけますか?

海外を含めいろいろな場所を旅したり、老人ホームのボランティア、たくさんの本を読むなどいろいろな人の生き方を見聞きする機会を持ったことです。その中で、「こういう考えは自分には抵抗があるな」とか「共感するな」と感じること、考えることを積み重ねていくことで、先ほどお話ししたような自分の「トリセツ」が形作られていきました。

この「トリセツ」が社会に出てからもすごく役立ちました。自分の心の特徴を知っていることにより、「自分はこういうタイプの人に対して感情が波立ちやすいから、少し気持ちをフラットにして会おう」などと心を整えられ、いろいろな人の価値観を受け入れていくことができたからです。

多くの人に出会い、いろいろな価値観に触れることは人生を豊かにしてくれるだけでなく、自分自身を知ることにつながります。比較的時間のある学生時代のうちに、ぜひそういう経験をしてもらえるといいかなと思います。

 
※本文は2018年取材時の内容で掲載しております

取材・文/泉 彩子 撮影/鈴木慶子