2020.03.19

なり方、やりがい…レアなおシゴト図鑑 | Vol.7 理学療法士

世の中にはさまざまなシゴトがあるけど、なかには就職情報サイトではなかなか見つけられないものも…。そんなちょっと意外なシゴトについている社会人を紹介します。

身体の基本的な機能回復をサポート
理学療法士

佐瀬加奈子さん
プロフィール●東京都出身。国際基督教大学教養学部社会学科卒業。1993年、総合職として日本航空株式会社に入社。98年、退職。2005年、東京衛生学園専門学校リハビリテーション学科卒業。理学療法士として総合病院での勤務を経て、2014年より介護老人保険施設シーダ・ウォークに勤務。

 

35歳で理学療法士に。きっかけはテレビで見たアメリカ映画だった

 

――なぜ理学療法士に?

新卒から5年勤務した会社を夫の海外赴任を機に退職し、再就職を考えた時に、何か専門職がいいなと思ったんです。外国人に自分の職業を話した時に単語ひとつでわかってもらえる仕事がしたくて。「会社員です」よりも「写真家です」「看護師です」と言える方が自分が何者なのかが相手に伝わりやすいじゃないですか。

そんなことを考えていた時に、たまたまテレビでアメリカ映画を観たんですね。その作品にキャンピングカー生活をしている男性が出てきて、彼が「妻がフィジカル・セラピスト(理学療法士)で、どこに行っても仕事に困らず、生活は安泰だ」と自慢するセリフがあって。それを聞いて、「おお! 理学療法士になれば、世界で通用するかも」と興味を持ったんです。理学療法士の資格は国ごとに設けられていて、日本で取得した資格をアメリカで使えるわけではないのですが、少なくても「私、フィジカル・セラピストなのよ」とは言えますから(笑)。

 

――理学療法士を名乗るには、国家資格が必要ですよね。

理学療法士過程のある4年制大学や短期大学(3年制)、専門学校(3年制・4年制)で必要な知識や技術を学び、単位を取得すれば、国家試験を受けられます。私の場合は入学当時30代で、2歳と0歳の子どもがいたので、なるべく短期で資格を取りたいと3年制の専門学校を選びました。

専門学校では医療全般の知識から心理学、公衆衛生学などリハビリテーションに必要な知識や技術を幅広く学び、病院での実習もありました。平日朝9時半から16時半までみっちり授業があって、終了後は保育園にお迎えに行き、子どもたちが寝てから勉強という毎日。忙しくはありましたが、それまで全く知らなかった医療の知識を学ぶのは新鮮でした。理学療法士に必要な知識は家族の健康管理や、将来の介護にも役立つので、いい仕事だなと感じましたね。

同級生の中では私が一番年上でしたが、高校卒業後にすぐ入学した人たちは3分の1ほど。残りは社会人経験者でした。いろいろなバックグラウンドを持つ人と知り合いになれて、学校はとても楽しかったです。

 

――国家試験は難しかったですか?

理学療法士の国家試験の合格率は当時9割ほど。今は受験者数が増え、合格率が8割ほどになる年もありますが、基本的に学校できちんと学べば国家試験はそんなに心配しなくて大丈夫だと思います。ただし、合格率の高さには裏事情も…。

 

――裏事情!?

試験が簡単というわけではなく、合格レベルの成績に達するようしっかり勉強させる学校が多いんです。私が通った専門学校は卒業試験が難しく、3回再試験を受けても合格基準点に満たない場合、卒業できないというシステムでした。だから、卒業試験前の数ヶ月は我ながらかなり勉強しました。

 

患者さんは一人ひとり違うから、マニュアル頼みでは通用しない

 

――就職先はどのように見つけたんですか?

在学中に実習でお世話になった総合病院に就職しました。同級生たちもあまり就職には苦労していなかったように思います。卒業生の就職先は病院以外にも、訪問リハビリテーションや介護老人保険施設などの介護・福祉系、保健センターなどの行政系などさまざまで、スポーツトレーナーとして活躍している人もいるようです。

 

――現在は介護老人保険施設に勤務されていますよね。

総合病院に9年勤務した後、引っ越しを機に自宅から通いやすい職場がいいと考えて転職しました。病院と介護老人保険施設の理学療養士の違いは、患者さんの疾患発症からどのタイミングで治療にかかわるかです。病院では急性期から回復期の治療を行います。急性期や回復期はリハビリの効果が目に見えやすいのが特徴で、患者さんが退院できるまでに回復した姿を見る喜びがありますが、基本的に限られた期間の治療を担当するので、退院後の患者さんの様子が気になることもありました。

介護老人保険施設では生活期の患者さんを対象に、回復期でできるようになった動作を維持し、再発や悪化を防ぐための治療を行います。目覚ましい効果は見えにくい時期ですが、比較的長期間にわたって一人ひとりの患者さんとの関係性を築きながらリハビリを進めていくことができます。

 

――1日のお仕事の大まかなスケジュールを教えていただけますか?

9時始業で朝礼があり、夜勤の看護師さんからロングステイ(入所)の患者さんの様子を聞いたり、連絡事項の伝達などをします。その後、午前中は患者さん一人につき20分、6〜7人のリハビリを行います。ロングステイのほか、ショートステイ(短期入所療養介護)やデイケア(通所リハビリテーション)の患者さんも担当します。

勤務先では医師、看護師、介護士、作業療法士、ケアマネジャー(介護支援専門員)、支援相談員と理学療法士で介護チームを組んで活動しており、昼食後はチームで情報共有やケアプランの評価を行うショートケースカンファレンスを行います。さらに、ロングステイの方のチェックイン業務を医師、看護師、介護士とともに行った後、終業の17時半までリハビリを行います。デイサービスを新たに利用される方のお宅を訪問して患者さんの身体の動きや住環境を確認したり、介助方法をご家族にアドバイスするといったことを行う日もあります。

 

――お仕事のどんなところに難しさを感じますか?

患者さんが一人ひとり違うというところです。理学療法の勉強をする前は、「この疾患にはこういうリハビリをする」というマニュアルのようなものがあると思っていたのですが、そうではありませんでした。「膝が痛い」という患者さんがいたとして、その原因が関節にあるとわかれば、多くの人にとってこういう方法の効果が高いというような研究結果は出ています。でも、膝の痛みの原因は関節ではなく筋肉かもしれないし、神経などほかの要因かもしれない。また、関節からの痛みだったとしても、肥満や既往歴など根本の原因が何なのかを見極めなければ、適切な治療はできません。医師と相談しながら、目の前の患者さんをきちんと見て問題点を見極め、それぞれの方に合った治療をしていくのが理学療法士の役割だと思っています。

 

――そのために大切なことは?

患者さんの症状だけに目を向けて「腰が痛いなら、腹筋を鍛えればいい」と杓子定規に考えるのではなく、患者さんに人として向かい合って、少しでもラクになるにはどうすれば良いかを一緒に考えることだと思います。そうすれば、「腰のために腹筋を鍛えたいけど、痛くて難しいから、まずはずっと座っていることをやめましょうか」と別の提案もできたりします。それから、新しい医療知識や治療法を常に学んで、引き出しを増やすことも大切だと思います。私の場合、疑問に思ったことはなるべくすぐに医師や同僚に教えてもらったり、調べるようにしています。新人時代、先輩から「給料の1割分は勉強会に行きなさい」と教わりました。最近は頻繁には行けていませんが、近いうちにハンドリング(患者さんの身体に手を添えて動作を促すこと)の実技講座を受講したいと考えています。

 

「先生」と呼ばれる仕事だからこそ、教わる気持ちを大事に

 

――収入についても教えていただけますか?

常勤で年収400万円前後だと思います。管理職になると収入が上がりますが、会社員と比べると、伸び率は大きくないように思います。職場で副業が認められている場合、休みの日に訪問リハビリのアルバイトをして1日1万を超える収入を得ている人もいるようです。

 

――体力も必要な仕事だと思いますが、長く続けていますか?

リハビリの時間は患者さん1人につき数時間におよぶようなことはありませんし、激しい動きはしないので、周囲に体力が理由で退職した人はいません。経験を蓄積すればするほど生きる仕事ですし、転職もしやすいので、40代、50代で活躍している人もたくさんいますよ。60歳近くになって訪問リハビリテーションの立ち上げのために転職した男性も知人にいます。

 

――お仕事にやりがいを感じる瞬間は?

患者さんと気持ちが通じ合えたなと感じた瞬間は「やった!」と思います。介護老人福祉施設の場合は認知症などで会話での意思疎通がしにくい患者さんも多いんですね。その場合、目を合わせたり、身体に触れたり、シンプルなコミュニケーションを重ねていくことになるんですけど、認知症で今話したことをすぐ忘れてしまうようなある患者さんがなぜか私のことだけは覚えてくれていて。久しぶりに会うと、「あら、かなちゃん、髪切ったの?」と声をかけてくれたりするんです。生物としてわかり合えたような感じがして、この仕事をやっていて良かったなと思いました。

それから、患者さんや他の職種の方たちとかかわる機会が多く、人生の先輩からさまざまなことを学べることもありがたいなと感じたり。患者さんの姿を見て「あんな素敵な年の取り方をしたいな」と思ったり、ベテランの介護士さんの患者さんとの接し方を見て勉強させてもらっています。

そう言えば、最近、もうひとつうれしいことがあったんですよ。

 

――何でしょう?

高校2年生の次男の同級生が「理学療法士になりたい」と言ってくれたんです。何がうれしいって、その男の子が小さいころからとても優しい子なんです。理学療法士は専門職なので、知識や技術を磨くことばかりに気持ちが向いてしまう人もいますが、本質的には人対人の仕事。人が好きな人に目指してほしいなと思います。

※本文は2018年取材時の内容で掲載しております

取材・文/泉 彩子 撮影/鈴木慶子