2020.03.05

なり方、やりがい…レアなおシゴト図鑑 | Vol.5 中小企業診断士

世の中にはさまざまなシゴトがあるけど、なかには就職情報サイトではなかなか見つけられないものも…。そんなちょっと意外なシゴトについている社会人を紹介します。

経営課題の解決をお手伝いする
中小企業診断士

塚本恭之さん
プロフィール●1967年生まれ。大学の商学部卒業後、1990年カシオ計算機株式会社入社。物流管理部門、経営企画、事業戦略(役員付)担当、IT系グループ会社経営戦略室長などを歴任。一方で、2010年よりNPOや中小企業などのスモールビジネスを支援するプロボノ団体に参画。100件以上のプロボノプロジェクトを統括する。 14年10月にカシオ計算機を退職し、プロボノを人材育成に活用するナレッジワーカーズインスティテュート株式会社を設立、代表取締役に就任。経済産業省登録 中小企業診断士、経済産業省 情報処理技術者(ITストラテジスト システム監査技術者ほか)などの資格を持つ。

 

「会社の中で出世するつもり満々で」、中小企業診断士の資格を取得

 

――塚本さんが中小企業診断士の資格を取得されたのは、41歳のとき。当時は大手メーカーに勤務されていたそうですね。資格取得のきっかけは?

中小企業診断士の存在は、新入社員時代にたまたま本屋さんで資格の本を見かけて知りました。取得を目指そうと決めたのは30代半ばに差しかかるかなという時期。そのころ僕は物流管理部にいて、社内でのキャリアアップのために通関士の資格を取ったんですね。ところが、「通関士」と名乗るには実務経験が必要で、転職でもしない限り条件を満たせず、「試験合格者」で終わってしまう。それでは何だか達成感がないなと思って(笑)。せっかく勉強する癖がついたので、何か別の資格も取ろうといろいろ探して、最もコストパフォーマンスがいいと感じたのが中小企業診断士の資格だったんです。

 

――どうしてコストパフォーマンスがいいと判断されたんですか?

前提として、当時の僕は会社の中で出世するつもり満々で(笑)、社内で生かせることが第一条件だったんですね。それで、最初はMBAを取ろうと考えたのですが、当時(1990年代後半)は海外で取得するのが主流で、調べてみると、取得までに500万円くらいはかかりそうでした。それに対し、MBA同様に経営全般を体系的に学ぶ中小企業診断士は独学で取得する人もいます。僕は通関士も独学で取ったので、何とかなるんじゃないかなと考えて中小企業診断士の資格取得に向けて勉強を始めたんです。

 

――2018年度の中小企業診断士試験の合格率は約4.4パーセントとかなりの難関ですね。

その数字は一次試験と二次試験を同時に突破した人の率で、ストレート合格する人はごくわずか。実際は一次試験の7科目に3年以内にすべて合格すれば二次試験に進め、二次試験は不合格の場合も翌年まで一次免除で受験できます。2018年度の一次試験合格率は約23.5パーセント、二次試験合格率は約18.8パーセントでした。

僕の場合は最初に一次試験を受けたときに、得意だと思っていた「財務・会計」と「経営情報システム」の試験に歯が立たなかったことに危機感を抱いて…。先に情報処理技術者資格の勉強をしたり、簿記2級を取得したりして、初挑戦から5年、再挑戦から3年後の08年に合格。その後、せっかく勉強したのだからと、情報処理技術者の資格も取りました。僕自身は将来のキャリアのために経営をオールラウンドに学ぶことに目的を置いていたので早期取得にあまりこだわりませんでしたが、とにかく早く中小企業診断士の資格を取りたいという場合はスクールでノウハウを教わるなど工夫をした方が良いかもしれません。

 

独立のために最も大切なのは、「クライアントを見つけること」

 

――2014年にメーカーを退職し、起業。プロボノ(社会人が自らの知識・スキルや経験を生かして行う、本業とは別の社会貢献活動)を通じた人材育成サービス支援とともに、経営コンサルティングに携わっていらっしゃいます。独立を考えた経緯を教えていただけますか?

中小企業診断士の資格を取ったことにより、社外の人たちと接する機会が多くなったことがきっかけです。というのも、中小企業診断士の登録の有効期間は5年で、更新登録をするには年間30日以上実務に携わることが必要なんですね。そこで、就業後や休日を利用してプロボノ活動に参加し、無償で中小企業やNPOの経営診断(経営課題の相談や助言)をさせてもらっていたんです。

そのうちに中小企業やNPOを応援したいという思いが強くなり、スモールビジネスを支援するプロボノ団体を仲間と運営したりしていたのですが、当時は今のように複業(複数の仕事を持つこと)・兼業が社会的に注目されておらず、僕が勤務していた会社でもポジティブには受け止められていなくて。社外のさまざまな人たちとの出会いに刺激され、新しいことに挑戦してみたくなったこともあって起業しました。

当社の主軸事業は、大企業や中堅企業の人材がプロボノを通じて中小企業やベンチャー、NPOなどを支援する体験型の研修サービス。大企業や中堅企業とスモールビジネスをつなげることにより、前者に人材育成の機会を提供するとともに、後者の経営課題解決を支援するというビジネスモデルです。起業したのはこのビジネスモデルを実践したかったから。「中小企業診断士の資格を生かそう」という発想ではありませんでしたが、おかげさまで規模を問わずさまざまな企業から経営診断の依頼をいただきますし、資格を持っていることがクライアントからの信頼にもつながっているように思います。

 

――中小企業診断士として独立するために大切なことは?

必ずしも企業での経験が長い人が活躍しているわけではありません。中小企業診断士に限らずどんな職種でも、独立のために最も大切なことはシンプルで、クライアントを見つけること。実績もなく、知り合いでもない中小企業診断士にいきなり経営の相談をする経営者はいません。僕自身はメーカー在職中にプロボノ活動などを通して無償で経営診断をするうちに多様な会社や団体にコンサルティング経験が積めたのと、この仕組みを研修事業化しようと考えたので独立しました。

今もコワーキングスペースで月1回経営相談会を開催して、基本的に料金はいただかずに経営のアドバイスをしています。無償でサービスを提供するメリットはいくつかあって、最も大きいのは、研鑽を積ませていただけること。来てくださった方にその場で対応するので事前の準備ができず、さまざまな課題の解決策を一瞬で考えてアドバイスするので、ものすごいトレーニングになるんですね。結果的に顧客開発につながることも珍しくありませんし、貴重な機会だと思っています。

 

――企業でのキャリアが長い方が、独立してからも活躍しやすいのでしょうか。

会社の仕組みを肌感覚で知ることができるので、企業経験はあった方がいいと思いますが、企業でのキャリアが長いからといって独立に有利とは限りません。中小企業診断士の資格を取得した人なら、経営の知識はひと通り身についていて企業でのキャリアの長短で大差はなく、問題は経験の中身だからです。

20代や30代で独立すれば、企業での経験をクライアントへのアピール材料にするのは難しいかもしれませんが、中小企業診断士にはコミュニティが存在し、診断士同士がお互いに仕事を紹介し合う風土があります。ベテランの業務をお手伝いしているうちにクライアントを引き継がせてもらったというような話もよく聞きますし、若手だからこそベテランに気に入られて仕事に恵まれるということもあるのではないでしょうか。また、結婚をしていなかったり、子どものいない若いうちに独立した方が身軽で、比較的収入面を気にせず仕事を受けることができ、経験を積みやすいという利点もあります。一方、企業で長くキャリアを積んで独立する場合も、「大企業の役員クラスの視点を理解している」「特定の業界に精通している」など専門性があったり、人脈を構築できていれば、年齢で不利になるということはないと思います。定年後に活躍する人も多い職種ですよ。

ただし、現状では中小企業診断士の資格だけで食べていくのは難しく、企業に勤務している「企業内中小企業診断士」が独立している資格取得者よりも多い国家資格です。勤務している会社で知識を生かすのも素晴らしいこと。とくに今はイノベーションを起こして企業が生き残るために社内ベンチャー制度や社外ベンチャー制度(事業を提案した社員が退職して社長となる形で関連会社を設立する制度)も盛んに運用されており、中小企業診断士の資格が生きる場面も増えています。企業経営に深く携わりたい人なら、独立志向の有無に関わらず、取得すると役立つ資格であることは確かだと思います。

 

――独立した場合の収入について教えていただけますか?

周囲を見る限り、企業診断以外にセミナー講師をしたり、別のビジネスモデルを組み合わせることによって400万円〜600万円くらいまでの年収を得るのはそんなに難しくないようです。それ以上となると個人の力量によりますが、年収1000万円以上を稼いでいる人もいます。

 

相手が求めていることに、まっすぐ応えようとする姿勢が大切

 

――中小企業診断士として最近携わったお仕事の一例を教えていただけますか?

中小企業診断士が解決をお手伝いする経営課題は大きくわけて「創業支援」「経営革新」「事業継承」の三つで、中小企業診断士によって得意分野があり、僕はおもに創業支援に携わっています。

最近お手伝いさせていただいて、とくに印象に残っているのは、緑化関連の事業を手がけているベンチャー企業からのご相談です。ある大手企業が開催するアクセラレーションプログラム(大企業やベンチャーキャピタル、地方自治体などが、起業家に対し、成功に向けて事業支援を行うプログラム)にクライアントが応募するにあたり、大手企業から信頼を得るための組織体制の作り方やプレゼンテーションのポイントなどについてアドバイスさせていただきました。数段階の選考を経て、現在、クライアントは最終選考まで残っています。

クライアントは斬新なアイデアの事業を手がけている企業で、経営者の方も大変魅力的でした。これまでアクセラレーションプログラム関連のご相談を数多くはお受けしたことがなかったこともあり、僕自身も勉強させていただくことの多い案件でした。

 

――中小企業診断士としてお仕事をされていて、やりがいを感じる瞬間は?

中小企業診断士や経営コンサルタントというのは、基本的に「相談に乗る人」なんですよ。相談に乗ることで、誰かのお役に立ちたいというタイプの人種なんです。だから、やはり一番の報酬は「ありがとう」と言っていただけることではないでしょうか。

例えば、「契約だから、仕方ない」という感じで100万円の報酬をいただくのと、「すごく助かりました」と60万円の報酬をいただく選択肢があるとしたら、絶対に後者を選びます。きれいごとを言っているのではなく、「ありがとう」と言っていただけるとリピートにもつながるから、「ビジネス」としてもそっちの方がいいんですよ(笑)。

ただ、矛盾することを言うようですが、コンサルティングのリピートはない方がいいんです。中小企業診断士がやるべきことはクライアントの課題を「解決してあげる」ことではなく、クライアントが自分で課題を解決するための考え方を提示することだからです。これを実践していると、「儲ける」ことが難しいのが悩みの種ですが…。

 

――最後に、中小企業診断士に向いているのはどんな資質を持った人なのか、お考えをお聞かせいただけますか?

中小企業診断士って、向いていない人があまりいないんですよ。というのも、日本には中小企業が約380万者(※)あり、抱えている経営課題は本当にさまざま。中小企業診断士というのはそれらの課題に必ずしもひとりで対応するわけではなく、法律関連の課題なら弁護士の先生を紹介したり、財務の課題なら会計士の先生を紹介するというように、さまざまな分野の専門家とクライアントをつなげる役割も持っているんです。自分には向いていないことがあっても、誰かと連携することで補っていける職種なので、経営に関心があり、クライアントの役に立ちたいという気持ちがある人なら、誰でも中小企業診断士としてやっていける可能性があると思います。
※中小企業には法人のほかに個人事業主を含むため、単位は「者」で数える。

ひとつだけ、向き・不向きというより、特定の分野のみを深く極めたいという人にはちょっとしんどい仕事かもしれないですね。資格試験も一次試験は7科目あり、経営について幅広い知識が問われますし…。好奇心旺盛で、いろいろなことを広く知っておきたいという人の方が楽しくできる仕事だと思います。

それから、資格試験の受かりやすさという視点でお話しすれば、論述試験と口述試験のある二次試験に何回挑戦しても不合格になってしまう方がいます。そういう方たちに共通しているのは、問題の趣旨を裏読みしたり、出題者が求めていることにまっすぐ答えない癖があること。能力がないわけではなくて、むしろ能力が高すぎる人に多いように思います。中小企業診断士の実務でも一番大切なのは、クライアントの求めていることを理解すること。相手の求めていることを知らずにコンサルティングはできないので、相手の話を素直に聞き、きちんと理解する力は必要ですね。

※本文は2019年取材時の内容で掲載しております
 

取材・文/泉 彩子 撮影/鈴木慶子