2020.02.20

なり方、やりがい…レアなおシゴト図鑑 | Vol.3 ゲームシナリオライター

世の中にはさまざまなシゴトがあるけど、なかには就職情報サイトではなかなか見つけられないものも…。そんなちょっと意外なシゴトについている社会人を紹介します。

 

ゲームとして楽しめる物語をつむぐ
ゲームシナリオライター

浦井あんなさん
プロフィール●ウサギリス株式会社代表取締役・脚本家・占い師。2000年、日本大学芸術学部文芸学科卒業後、フリーランスの編集者・ライターとして情報誌などの記事を制作。07年、各種シナリオライティング、イラスト、デザインを請け負う制作会社・ウサギリス株式会社を設立。08年に手がけた女性向け恋愛シュミレーションゲーム『ヒルズの恋人2』のシナリオを皮切りに、ゲームシナリオライターとして活躍。シナリオを担当したおもなゲーム作品に『POSSESSION MAGENTA』『VitaminX Destination』、ボイスドラマに『ボイスサプリ』『源氏物語〜男女逆転恋唄』『聴く本劇団ナナイロ』など。
ウサギリス→http://usagirisu.com

 

 

趣味のゲームが仕事に。ゲーム業界にコネクションはなかった

 

――もともとはフリーランスの編集者・ライターとして雑誌やWebサイトの仕事をされていたとか。

そうなんです。大学在学中からアルバイトでライターの仕事をしていて、卒業後はフリーランスに。飲食店取材や美容系、タウン情報など最初はいろいろな記事を書いていました。中学時代から独学で勉強していた知識が役立って、占いの執筆をメインにしていた時期もあります。

 

――ゲーム関連のお仕事を始めたのは?

ゲーム自体は好きで、夜中にサバイバル系の殺伐としたゲームをしたりしていたんです。その姿を見て引いた夫が「もう少し癒されるゲームをやったら?」と買ってきたのが、『ときめきメモリアル Girl’s Side』という乙女系ゲーム(恋愛ゲームのうち、主人公が女性のゲーム)でした。最初は「恋愛ゲーム!?」と失笑したのですが、やってみるとハマってしまって、当時発売されていた乙女ゲームを全タイトル10本ほど制覇(笑)。ストーリー性が強いところにひかれて、「なんか、面白そう。こういうのを書く仕事がしてみたいな」って思ったんですけど、当時はゲーム業界にコネクションもなく…。

ところが、数年後に占いのお仕事をいただいていたクライアントが携帯電話向けの乙女ゲームの制作を始め、「浦井さん、ゲームのストーリーを書きたいって言ってたよね。やってみない?」と声をかけてくれたんです。それで、書かせてもらったのが2008年に発売された『ヒルズの恋人2』という乙女ゲーム。これが結構ヒットして、次々とお仕事をいただけるようになりました。ちょうど乙女ゲームのブームが始まった時期で、シナリオライターの需要が高まっていた影響も大きかったと思います。

 

――すごい! やりたいことを周囲に話すって大事ですね。

あ、それは自然といつもやっているかもしれません。「こういうことをやりたいんです」と事あるごとに伝えておくと、意外と皆さん、覚えていてくださるものですよ。

 

 

プロとして「稼げる」のは、“コミュ力”と社会人としての常識がある人

 

――ゲームのシナリオライターというのはどんなお仕事なんですか?

ゲームにはアクションやロールプレイング、ノベル、パズルなどさまざまなジャンルがあり、それぞれ制作工程や制作にかかわる人それぞれの仕事内容も違います。私がご依頼をいただくことの多いノベルゲームについてお話すると、ストーリーを組み立てていくという点では、ゲームのシナリオも映画やドラマのシナリオと同じです。少し違うのは、ゲームはプレイヤーの選択によって物語の流れが分かれていくので、メインのストーリーのほかに、複数のサブストーリーを作る必要があります。例えば、学校に遅刻しそうになってパンをくわえながら走っている女の子がどの道を選ぶかによって、思いを寄せている彼とバッタリ会ったり、会わなかったり…といった場面の詳細をフローチャートをもとにケースごとに書いていきます。

 

――フローチャート…。何だか、複雑そうですね。やはりゲームのシナリオを書くにはプログラミングの知識が必要なのでしょうか。

あれば役立ちますが、ノベルゲームについてはプログラミングの知識はさほど必要とされないと思います。基本的には分業が進んでいるので、フローチャートもすでに作成されたものを渡されることがほとんどです。ごく小規模なプロジェクトではシナリオライターがプランナーやプログラマーの仕事の一部を兼任したりすることもありますけどね。

プログラミングとの関わりで大まかな筋書きやメインキャラクターの設定はすでに決まっていることが多いので、ゲームの世界観やストーリーを自分が主体となって作りたいという人はプランナーやディレクターを目指した方がいいかもしれません。一方、ストーリーをイチから考えるのは苦手でも、人形遊びのようにキャラクターの会話やちょっとした行動を考えるのが好きという人にはシナリオライターが向いているし、楽しい仕事だと思います。パロディを書くのと少し似ているので、同業者には「同人誌をやっていました」という人も多いですね。

 

――未経験からゲームシナリオライターになるには?

制作会社に就職をするのが近道でしょうね。ただ、シナリオライターに特化して社員を募集する会社はあまりないので、シナリオメインで仕事をしたい人の場合は、プランナーやディレクターなどほかの職種と兼任しながら経験を積んだ後に独立をするか、制作会社と契約を結んでフリーランスとして実務経験を重ねていくというスタイルが多いように思います。

 

――収入はどんな感じなんでしょう?

ノベルゲームの市場はここ10年ほどで大きくなっていて、ゲームライターの需要も増えていますが、ゲーム市場全体の中ではまだニッチなジャンルなので、専業では食べていけず、副業として月に数万という人も多いです。一方で、ゲームのシナリオに関連して企画やディレクション業務なども手がけて年収1000万円以上という人もレアではなくなってきています。

 

――プロとして稼げる人とそうでない人の差は何でしょう?

周囲を見ていると、文章を書く力の差というよりはコミュニケーション力なのかなと思います。クライアントが求めるものを理解するには対話が必要ですし、フリーランスの場合はギャランティなど条件の交渉も大事です。

私が経営している制作会社でも外注のシナリオライターを募集することがあるのですが、“コミュ力”が低い人って驚くほど多いんですよ。応募のメールにたった2行「興味があります。よろしくお願いします」としか書かれていなかったり、名前がハンドルネームだったり…。

 

――ハンドルネーム!

それも、ひとりや二人じゃないんです。プロとして仕事をしていきたいなら、少なくても相手に自分が何者なのかをわかってもらおうとする姿勢や、社会人としての最低限の常識はないと厳しいですよね。ただし、高い“コミュ力”がないとやっていけないかと言えば、そうではなくて、コミュニケーションが苦手と自分で感じているなら、マネジメントを制作会社に任せるなどフォローする方法はあると思いますよ。

 

 

ゲームとしての制約がある中で、言葉を使っていかに表現するか

 

――お仕事で大変なことは?

先ほどお話ししたように、シナリオはプログラミングができあがった後に書くことが多いのですが、さまざまな事情でストーリーやキャラクター設定が変更されて大幅な修正がある時は「おっと。来たな」って感じですね。そこでモチベーションを切り替えたり、納期の交渉をしたりして、やり切る力も大事だと思います。

あと、この仕事を始めてひとつだけ後悔しているのが、ノベルゲームで夢を見られなくなってしまったこと。声優さんの声だけを聴いていた時は「素敵…」とフィクションの世界に浸れたのに、仕事にしてしまうと、「あれ? この声優さんってあの作品にも出演していたような…」とか「このシチュエーション、前に書いたことある」とか、つい余計なことを考えてしまうんですよ。「私は物語にどっぷりハマって楽しみたいのに~!」と残念だったりします

 

――やりがいを感じるのはどんな時ですか?

私は学生時代から小説を書いていたのですが、ゲームのシナリオには小説とはまた別の面白さを感じます。ゲームとして成立するためのさまざまな制約の中で、いかにライターとして表現をするか。例えば、ある男の子のキャラクターが「ツンデレ」とすでに設定されていても、可愛い「ツンデレ」なのか、ちょっと大人な「ツンデレ」なのかで印象はずいぶん違いますよね。それをディレクターさんやプランナーさんと話してイメージを共有しながら、セリフや仕草を表現する言葉を選び、キャラクターの細部を作り上げていく。制約のある中で自分たちにしかできない表現を追い求めていくというのは、すごくクリエイティブで楽しいです。

 

――今日は事務所にお邪魔していますが、声優さんのサインが飾られていたり、これまで手がけてこられた作品がズラリと並んでいたりして、職場の雰囲気からして楽しそうです。ところで、壁に「180」「170」「160」「150」などと書かれた付せんが貼られているのですが、これは何でしょう?

身長計です。うちのスタッフは女性ばかりなので、キャラクター設定に「身長175センチ」の男性と書かれていても、どのくらいの高さなのかピンと来なくて。こうしておけば、「主人公の女性の背は155センチだから、175センチの男性を見上げるとこんな感じだな」とか「“壁ドン”する時に男性は腰をかがめることになるな」とかわかるじゃないですか。

プレイヤーさんに楽しんでいただくために、リアリティのないものは作りたくないという気持ちはありますね。そのためには物事を肌で感じておくことが大切なので、ライターとしていろいろな場所を取材したり、旅行や遊びに出かけた経験も財産です。「石油王」が登場する乙女ゲームを書いた時は、ドバイに旅行しておいて本当に良かったと思いました(笑)。

それから、シナリオライターはいろいろな世界を書かないといけないので、会社員の経験も決して無駄にならないし、あれば役立ちます。出社時間のエレベーターがどんな混雑状態なのか、職場に着いたらまず何をするのか。いろいろなパターンはありますが、そのひとつを知っていれば応用できますよね。やってみないと見えないことはいっぱいあるので、ゲームシナリオライターを目指すなら、学生時代も、社会に出てからもいろいろなことをガンガン経験していってほしいと思います。

※本文は2018年取材時の内容で掲載しております
 

取材・文/泉 彩子 撮影/鈴木慶子