2020.02.13

なり方、やりがい…レアなおシゴト図鑑 | Vol.2 音楽クリエイター

世の中にはさまざまなシゴトがあるけど、なかには就職情報サイトではなかなか見つけられないものも…。そんなちょっと意外なシゴトについている社会人を紹介します。

 

人が求めているものを音楽で表現する
音楽クリエイター

北川暁さん

プロフィール●音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。株式会社Amadeus Code代表取締役。14歳よりギターを始め、高校時代はバンド活動に明け暮れる。 大学卒業後、本格的にミュージシャンを目指し、1995年バークリー音楽院(アメリカ・ボストン)に留学。Michael Williams、John Wilkins、Tomo Fujitaなどに師事。97年に帰国後はさまざまなバンドでのライブやレコーディングに参加。2008年、音楽クリエイター集団・ビーエスエム株式会社(現・株式会社Amadeus Code)に参画し、12年より代表取締役。これまでに嵐の「Happiness」「Step and Go」「マイガール」等の作詞をはじめ、多くのアーティストへの楽曲提供、編曲などを行う。19年には、ローマ教皇来日のテーマソング「PROTECT ALL LIFE 〜時のしるし〜」の編曲も担当。AIによる作曲支援アプリ「Amadeus Code」の開発にも携わり、現在は動画クリエイター用のオーディオライブラリ(https://evokemusic.ai/ja/)の運営を担当している。

 

音楽を作る人間に必要なのは、判断の力

 

――どのようなお仕事をされているんですか?

作詞、作曲、プロデュースなど楽曲制作業務全般を手がける会社を、音楽仲間と一緒に経営しています。自分で楽曲を作るほか、当社に所属している作詞家、作曲家のマネジメントも担当しています。CDのプロデュースの依頼をいただくこともありますし、仕事は幅広いですね。最近は、18年3月にiOS版をリリースしたAIによる作曲支援アプリ「Amadeus Code」の開発をメインでやっています。

 

――AIによる作曲支援アプリ、ですか。

はい。スマートフォンの画面で「音域」「音の長さ」「盛り上がり度」「親しみ度」「年代」といった項目を設定すれば、AIがメロディを作ってくれるアプリです。できたメロディが気に入らなければ、やり直しも無限にできます。

 

――そんなアプリを開発したら、作曲家のお仕事がなくなってしまうのでは?

開発中、実は僕も危機感を抱きました(笑)。「Amadeus Code」はAIに過去のヒット曲を学習させてデータベース化し、設定条件で計算して導き出されたコード(和音)進行をもとにメロディを作る仕組みです。作曲というのは感覚的な要素が大きいイメージですが、ポピュラー音楽には定番のコード進行がいくつもあり、このコード進行が曲のムードを左右します。これまではそれを人間が記憶し、作りたい曲のイメージに合わせて選んでいたわけですが、この作業そのものはAIがやっても変わらず、むしろ処理能力はAIに軍配が上がります。

データベースの構築が進むにつれ、AIが自分では思いつかない曲をどんどん作るようになり、「これは負けられない」と刺激を受けました。一方で、曲作りにおいて人にしかできないことは何かが見えてきた気がしています。

 

――それは何でしょう?

「判断」です。AIが作った曲と、人間がアレンジを加えた曲を比べてみると、アレンジを加えていない曲は少し味気なく聴こえます。繊細な耳を持った専門家が間やムード、テンポなどを判断し、アレンジすることでようやく聴いて気持ち良かったり、心を動かされる曲になるんです。この「判断」の力こそが音楽を作る人間に必要なものだと思います。

 

ニーズに応えつつ、「驚き」をどれだけ加えられるか

 

――楽曲制作の仕事に携わるには?

作曲や作詞は、レコード会社から「コンペ」(作品審査)のお話をいただいて応募し、選ばれたら採用というスタイルが一般的です。ディレクターさんに仕事ぶりを評価されて、指名で依頼が来ることもあります。プロデュースは制作全般の指揮をする仕事なので、ある程度音楽業界で経験を積まないと依頼されることはまずありません。僕の場合は、仲間のアーティストのアルバムを担当したり、友人からの紹介でレコード会社からお話をいただく感じです。

 

――未経験の人が作詞・作曲のコンペに参加するには?

レコード会社や音楽関係の出版社などが主宰するコンテストも時々開催されていますが、アーティストの楽曲募集で公募制のものはあまり聞いたことがありません。レコード会社や作家事務所に問い合わせをして情報を得るのが一般的だと思います。作家事務所には手がけている楽曲にアイドル系が多い、CM関連が多いなどそれぞれ特色があり、Webサイトで判断できる場合も少なくないですから、調べてみるといいのでは? 実際、僕たちの会社にもデモテープを送ってきてくれたのをきっかけにこちらから連絡して活躍している作曲家、作詞家もいますよ。

 

――「You Tube」などインターネットでの発信をきっかけに才能を見出されることも?

大いにあると思います。海外のトラックメーカー(ヴォーカルのない音源やインストゥルメンタルの制作者)にはSNS出身の人も結構多いです。録音機器の進化で、自宅で作るのとスタジオで作る作品のクオリティに差がなくなってきているので、チャンスは広がっていると思います。SNSで作家同士がつながったりするという話しも聞きますし、作品を作って発信するというのは有効な手段ではないでしょうか。最初から仕事の依頼が来るまではいかないかもしれないけど、「試しに1曲作ってみて」「一緒に何か作ってみよう」と声がかかる可能性はあると思います。

 

――楽曲を制作する時に大事にしていることは?

人が求めているものを、自分なりに表現することです。音楽を作るというと、ゼロから何かを生み出すようなイメージがあるかもしれませんが、少なくともプロとして売れる音楽を作ろうとするなら、それは違います。まずは聴く人のニーズに応え、受け入れてもらわなければいけません。そのためには依頼主とのコミュニケーションが不可欠ですし、マーケティングのようなことも大事でしょう。ただ、ニーズに応えようとし過ぎると、つまらない楽曲になってしまう。ニーズに応えつつ、自分の判断によって、「驚き」をどれだけ加えられるかが問われます。「言うは易し」で、実際はすごく難しいことなんですけどね。

 

――いわゆる「一発屋」にはなれても、新鮮な楽曲を常に提供するというのはなかなかできることではないと思います。アイデアの枯渇に悩むことは?

時代を問わずいろいろな音楽を聴く、さまざまな人と話す、世の中のことに広く関心を持つなど視野を狭めないよう工夫はしていますが、アイデアというのは湯水のようには湧いてこないですよね。特に今はリスナーの音楽の聴き方が多様化し、一部を除いて大きなヒット曲が出にくい時代。レコード会社や芸能事務所もCD以外にもアニメ、ゲーム、スマートフォンなどいくつもの媒体でのビジネスを模索しており、楽曲制作のオーダーも多様になっています。それらに個人のクリエイターが応えるのは限度があるので、僕たちのように、複数のクリエイターがチームで活動するケースも増えてきました。

 

――複数のクリエイターがアイデアを出し合ってひとつの曲を一緒に作ったりすることも?

ありますよ。コライト(共作)って言うんですけど、作詞、作曲、編曲をそれぞれ担当したり、ひとつの曲をパートごとに作ったりします。コライトは日本でも増えつつあり、海外ではいまや主流。スウェーデンは「音楽輸出大国」と言われていて、人口900万人の小国にもかかわらずアメリカ、イギリスに次ぐ版権料を稼いでいるのですが、同国でコライトが普及していることがその理由のひとつと言われています。制作スピードが格段に早くなりますし、メンバーそれぞれの得意分野を生かして、ひとりでは生み出せないような曲ができたりもします。

 

――作詞や作曲というのは、ひとりで部屋にこもって…というイメージでした。

そういうスタイルでこそ力を発揮できる人もいます。ただ、ひとりで黙々と作業をしているとワンパターンに陥りがち。プロとしてコンスタントに楽曲制作をするには、自分のカラーを持ちつつ、仲間からアドバイスや刺激をもらえるような環境があると心強いと思いますね。僕たちが「Amadeus Code」の開発をしようとしたのも、そこに大きな理由がありました。AIもその「仲間」のひとりになり得るんじゃないかと考えたんです。

 

音楽で食べていくって大変だけど、楽しい

 

――作曲家や作詞家、プロデューサーといった音楽クリエイターとして活躍するには、音楽関連の学校を卒業していた方が有利なのでしょうか?

知識や技術は身につけておけば役立ちますが、実力が評価される世界なので、音楽関連の学校を卒業したからといって活躍できるとは限りません。むしろ、音楽大学でクラシックの厳密な理論を学び、それにとらわれてポピュラー音楽を作る時に苦労する人もいます。もちろん、違いを柔軟に受け止め、学校で学んだことをきちんと生かして活躍している人もいますよ。

 

――最後に…。音楽で食べていくって、やっぱり大変ですか?

フリーランスの場合は、収入が不安定になりがちですよね。作曲や作詞はコンペで選ばれないと仕事を獲得できませんから、数百万の収入がある月もあれば、ゼロのこともあります。また、同じ曲でも、クライアントとの契約の形態によって収入が変わります。形態は「印税(著作権者がレコード会社などから受け取る著作権使用料)」契約と、最初に作曲料をもらって著作権を相手に譲渡する「買い取り」契約のふたつ。「買い取り」の場合は一定の収入が保証される代わりに、大ヒットしても印税は入りません。

楽曲の印税は6パーセントで、その半分を著作権を管理する出版社が受け取り、残りを作詞家と作曲家が分けます。1000円のCDで作詞家と作曲家が別なら、1枚につき15円。1万枚売れて15万円ですが、手数料や税金が引かれて、10万円くらいといったところでしょうか。

 

――2018年4月3週目のオリコンシングルCD週間ランキングを見ると、1位のKAT-TUN「ASK Yourself」の推定売り上げ枚数が約2万5000枚。2位のMAN WITH A MISSION「Take Me Under/Winding Road」が約6000枚…。いずれも発売されたばかりですが、シングルCDが1万枚売れるって大変なことですよね?

はい。CD、売れません(笑)。ただし、今はダウンロード配信の割合も大きいですし、カラオケ、テレビのBGMなど楽曲が使われるごとに印税が入りますから、ヒットすれば、そこそこの額になります。預金口座にまとまった額が振り込まれていて不思議に思っていたら、以前作った曲がライブDVDに収録されてたくさん売れ、思わぬ収入が…なんてこともありますよ。

 

――夢の印税生活! でも、ヒット作を立て続けに生むのは難しそうですから、厳しい世界ですね。プロデュースの仕事の場合は、実績ありきですからなおさらでしょうし。

確かに厳しいんですけど、それは一般のビジネスの世界でも一緒ですよね。仲間とチームで仕事をしたり、コンピュータやAIなどテクノロジーを取り入れるなどして環境を整えていけば、消耗することなく楽曲を作り続け、生活を維持していくことは可能だと思っています。それに、僕は音楽が好きなんです。好きなことで何かを表現して、それで誰かが感動してくれたりする。そんな仕事ってそうそうないんじゃないかな。音楽で食べていくって大変だけど、楽しいですよ。

※本文は2018年取材時の内容で掲載しております

取材・文/泉 彩子