2019.10.01

INTERVIEW こんな人と働きたい!  Vol.18 映画監督/上田慎一郎さん

各界の著名人に、これまでに出会った、プロとしてすごいと思った人、影響を受けた人など「こんな人と一緒に働きたい!」と思う人物像をインタビュー。

映画監督として「撮りたい人」と、
「一緒に働きたい人」はまた別


うえだ・しんいちろう●1984年、滋賀県出身。中学生のころから自主映画を撮りはじめ、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2009年、映画製作団体PANPOKOPINA(パンポコピーナ)を結成。『お米とおっぱい。』(11年)、『恋する小説家』(11年)、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016短編部門奨励賞に輝いた『テイク8』(15年)など8本の映画を監督。国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得する。15年、オムニバス映画『4/猫 ねこぶんのよん』の一編『猫まんま』を監督し、商業デビュー。18年6月23日に公開した初の劇場用長編『カメラを止めるな!』は2館から350館へと拡大公開され、動員数は220万人以上、興行収入は31億円を突破。異例の大ヒットとなった。妻であるふくだみゆきの監督作『こんぷれっくす×コンプレックス』(17年)、『耳かきランデブー』(18年)などではプロデューサーも務めている。「100年後に観てもおもしろい映画」をスローガンに娯楽性の高いエンターテインメント作品を創り続けている。

 

新作の出演者は、スポーツチームを作るような考え方で選んだ

 

――最新作『スペシャルアクターズ』(2019年10月18日公開)に出演されているのは、ほぼ無名の俳優さんたちばかりですが、それぞれが持ち味を発揮されていて、どのキャラクターも印象的です。出演されている15名は、1500名の応募者の中から書類選考、オーディション、2日間のワークショップを経て上田さんご自身が選ばれたそうですね。選考の基準は何だったのでしょう?

この作品は、ワークショップで発掘した役者たちと一緒にゼロから映画を作るという企画だったので、何と言うんでしょうかね…。美男美女だったり、演技の技術の高い人は大作映画で観ることができるので、差別化を考えて、この作品ではルックスや演技よりも、その人そのものが持つ個性が魅力的かどうかを基準にしました。

 

――「個性が魅力的」とは?

僕自身が「見ていたいな」と思う人。イコール、「撮りたいな」と思う人です。僕が「撮りたいな」と思うということは、お客さんを「なぜかわからないけれど、見てしまう」とか「見ていたい」と思わせる人でもあると考えているので、「次の芝居も見てみたい」「こいつから目が離せない」と感じた人を選んでいます。

ただ、どんな仕事でも同じだと思うのですが、映画はチームで作ります。だから、出演者を選ぶときには、それぞれの個性だけでなく全体のバランスも意識しています。性別や年齢といった基本的なことも考えますし、あとは、演技や物事の進め方の器用さ、不器用さ。今回の作品では基本的に「不器用だけど個性が魅力的な人」を選んでいますが、不器用な人ばかりでも映画づくりは成り立ちません。だから、ある程度技術や経験があって、支える役割をしてくれる人も何人か入れ、スポーツチームを作るようなつもりで出演者15名を決めました。

 

――15名を選んだ段階ではプロット(脚本の構想や筋書きをまとめた企画書)もなく、3日間のワークショップを経て、ストーリーの方向性や配役を決め、あて書き(その役を演じる俳優の個性に合わせて脚本を書くこと)で脚本を書かれたそうですね。主演の売れない俳優・和人に大澤数人さんを抜擢された理由は?

ワークショップ中、数人はほかの人の芝居を見ていたり、僕の話を聞いているときの表情や、休憩中にお菓子をつまんでいるときの様子といった、お芝居をしているとき以外の姿にも独特の魅力があって、とにかくずっと目が離せなかったんですよ。

それから、彼は僕と同い年の35歳ですが、過去10年で3回しか演技の仕事をしたことがなく、役者をしていることを両親にも知らせていなかったという人物なんですね。ワークショップ中は決まっていなかったのですが、今回の映画のストーリーは緊張すると気絶してしまう売れない役者の主人公が、プレッシャーと闘いながら奮闘するという設定なので、数人の経歴と重なるところがあり、キャラクターとしての奮闘だけでなく、生身の数人が挑戦し、成長していく姿を撮りたいと思ったというのも、彼を主役にした大きな理由です。

『スペシャルアクターズ』は全国約150の映画館で上映される作品なので、経験のほとんどない彼がいきなり全国公開の映画の主役を務めるというのは、気絶しそうなプレッシャーだったと思います。撮影中、すごいなと感じたのは、数人自身の奮闘ぶりもそうですが、出演者みんなが彼を支えようとしていたところ。チームとしての現場の雰囲気が、完成した作品にそのまま表れているように思います。

 

忌憚のない意見をくれる人の存在は、才能のようなもの以上に大事かもしれない


『スペシャルアクターズ』の出演者は、名の知られていない俳優がほとんど。「これまで作ってきた映画もそうですが、監督の使命のひとつとして、彼らの名刺にもなるような作品を撮りたいという気持ちはありました」と上田さん。

 

――大ヒットした『カメラを止めるな!』の次の長編作ということで、上田さんご自身も相当なプレッシャーをお感じになったとか。

脚本が完成するまでには、本気で何度か気を失いそうになりました。もともとはポンコツ超能力者5人がテロリストから世界を救うSF映画にしようと考えて、プロットも出演者に渡し、リハーサルも始めていたのですが、20ページほど書いたところで、その先が書けなくなってしまって。本来なら脚本の初校を仕上げるという日に、「苦しくて、書けない。ゼロから企画を考え直したいから、みんなも協力してもらえないか」と打ち明けました。その後、出演者全員が企画会議に参加して、ホワイトボードにアイデアを出し合ってくれて…。そこで出たキーワードをもとに、最終的な脚本ができあがっていきました。

 

――プロデューサーの深田誠剛さんの存在にも支えられたと「Twitter」でつぶやいていらしゃいましたね。

深田さんは終始、「上田さんのやりたいことをやってください」と僕のことを信じていてくれました。「やりたいことをやってください」というのが単なる放任主義からの言葉ではなく、熱を帯びたものだったので、僕も深田さんのことを信じられたんでしょうね。

 

――『カメラを止めるな!』のヒット以来、ご自身の環境が目まぐるしく変わる中、戸惑ったり、迷うこともあったのではと思います。そんなときによく相談をする人はいますか?

すぐ思い浮かぶのは妻であり、映画監督であるふくだみゆきと、幼稚園からの幼馴染で、『カメラを止めるな!』や『スペシャルアクターズ』の音楽も担当してくれた鈴木伸宏です。ふたりとも、2019年に法人化した制作会社「PANPOCOPINA(パンポコピーナ)」を一緒にやっている仲間なのですが、気心が知れていて、厳しい意見も忌憚(きたん)なく言ってくれるのがありがたいです。自分が弱音を言えたり、忌憚のない意見をくれる人をそばに置くというのは、才能のようなもの以上に大事かもしれないと、ときどき思います。

ところで、「こんな人と働きたい!」というような話って、しなくて大丈夫ですか?

――えーと…。

作品にどんな役者を選ぶかとか、どんな人に仕事で支えてもらったかということと、どんな人と一緒に働きたいのかというのは、僕の中ではまた別なんです。

 

当たり前のことが徹底できたら、もうそれは「仕事がかなりできる人」


『スペシャルアクターズ』の脚本は配役を先に決め、俳優の個性に合わせて書いた。「どんな仕事も、得意じゃないことを伸ばすのは効率が悪い。『適材適所』が大事ですが、それぞれの魅力を出しつつ、物語上必然性があるよう組み込んでいくのがすごく難しかったです」。

 

――ぜひともうかがいたいです。どんな人と一緒に働きたいですか?

ふたパターンいまして、まず、いわゆる仕事がデキるタイプ。例えば、締め切りに対する姿勢。締め切りを守るということはもちろん大事ですし、欲をいえば、締め切りよりも数日前に仕上げてきたり、仕上がったものが予想を上回るクオリティだったら最高ですけど…。その次に問われるのが、締め切りに間に合わないときに、相手に催促されるより前に、少しでも早く「申し訳ありません。あと1日ください」と伝えられるかどうか。そういう割と細やかなことが、その人の評価になってくるものですよね。当たり前のことではあるんですけど、当たり前のことが徹底できたら、結構、もうそれは「仕事がかなりできる人」だと思うんですよ。

もうひとつは、仕事はあんまりできないけれど、現場にいてほしいというタイプ。こまめにメールで連絡したり、段取りが良かったり、効率良く仕事ができるわけではないけれど、その人がいると現場が明るくなるとか、和やかになるというタイプ。いわゆる、ムードメーカーですね。ムードメーカーって、いるだけですでにムードメークっていう仕事ができているってことじゃないですか。

僕と一緒に働いている人にはこのふたつのタイプが多くて、後者タイプの人も、チームの一員としてちゃんと役割を果たしてくれています。だから、社会に出て仕事ができなくても悲観はしなくていいと思いますよ。いるだけで仕事になるってこともありますから。

あと、誰かと一緒に仕事をするうえで、僕自身が心がけているというか、ほかの映画監督と比べると、もしかしたら、こまめにやっているかなと思うのは、周囲への情報共有とアナウンスです。というのも、当然の話なのですが、人が何かをやろうというときに、情報が不足していると、アクションって起こしづらいんですよ。

例えば、僕はこれまでずっと仲間と映画を作ってきて、脚本、監督、編集のほか、宣伝もみんなと一緒にやるということをやってきました。その過程で、僕がきちんと「この映画館は○時から○時の間ならビラを配れるそうなので、配るなら、こういう手順を踏んでほしい」とアナウンスしていなかったことによって、周囲がどう動いていいのかわからず、結局、行動できなかったというようなことがあったんですね。インディーズ映画で、少しでも多くの人に作品を知ってもらいたいとせっかくみんなも考えてくれているのに、そういうことが起きては申し訳ないなと反省しました。だから、チームのみんなが行動を起こすために必要な情報はできるだけ伝えるように心がけています。

 

Information

上田さんの新作映画『スペシャルアクターズ』が2019年10月18日(金)より全国公開される。緊張すると気絶してしまう役者・和人が、演じることを使った何でも屋「スペシャルアクターズ」の仲間とともに、「カルト集団」に立ち向かう。上田さんは監督・脚本・編集・宣伝プロデューサーを担当。本作は「作家主義」×「俳優発掘」をテーマに掲げる、松竹ブロードキャスティングによるオリジナル映画プロジェクト第7弾作品。1500名を超える応募の中から発掘された、ユニークな経歴の俳優15名が出演する。前作『カメラを止めるな!』同様、鑑賞後に身近な人と語り合いたくなる作品だ。

 

取材・文/泉 彩子 撮影/鈴木慶子

 

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